- 2025/6/6
- 緩和ケア便り 6月号
慶應義塾大学医学部 外科学教室(一般・消化器)
星 勇気
2025年5月に1ヵ月間、大学院のがんプロフェッショナル養成コースの一環で、緩和ケアチームにて研修をさせていただきました。これまで私は外科の医師として主に食道がん・胃がん・大腸がんなどの消化器がんや乳がんの診療に携わってまいりました。その中で緩和的治療を必要とする患者さんや終末期の患者さんに関わることも少なくはありませんでしたが、今回のように体系的に緩和ケアに関わる機会は初めてであり、非常に貴重な経験となりました。
緩和ケアでは、患者さんが抱える様々な苦痛や問題に対して、多面的なアプローチを試みます。がんに伴う身体的な苦痛、病気を抱えていることによる精神的な苦痛、そして、今後の療養環境などの社会的な問題、さらには家族との関係性といった問題も対象になります。もちろん他の診療科でも同様の配慮がなされますが、緩和ケアチームの先生方は特に、一回一回の診察で長い時間をかけて患者さんの訴えに耳を傾け、患者さんに常に寄り添う姿勢で診療にあたっておられるように感じました。回診の際に先生がベッドサイドでしゃがみ、患者さんと同じ目線で穏やかに会話されている姿が非常に印象的でした。
緩和ケアで使用する薬剤についてもたくさんのことを勉強させていただきました。癌性疼痛に対して使用する医療用麻薬にも多くの種類があり、患者さんの痛みの質・程度、全身状態、負担などを総合的に判断して薬剤の種類や投与方法を考えることが重要であると学びました。また、痛みのコントロールには、麻薬に加えて鎮痛補助薬の併用や、神経ブロックなどの手技も有効であることを知りました。前まで痛みで辛そうにしていた患者さんが、鎮痛により少しずつ表情が和らいでいく様子を目の当たりにして、嬉しく感じると同時に、これまでの外科の診療とはまた違ったやりがいのようなものを感じました。
専攻医1年目の頃、当時の指導医から「医療は患者さんのニーズに応えることだ」と教わったのを今でも覚えています。今回、緩和ケアチームの一員として多くの患者さんと接する中で、病気を治すことだけが患者さんのニーズではなく、「どう生きるか」「どう過ごしたいか」に応えることもまた、医療者の重要な役割であることを改めて実感しました。今後も患者さんに寄り添い、患者さんの全人的な苦痛に目を向けられるような医師を目指して精進してまいりたいと思います。1か月間ご指導いただきました緩和ケアチームのスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。